落窪物語:姫君の苦難」の現代語訳(口語訳)

「落窪物語:姫君の苦難」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

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「落窪物語:姫君の苦難」の現代語訳

 唯一の味方である「後見うしろみ」は、「あこき」と呼び名を変えて三の君にも仕えることとなり、思うように姫君の世話ができない。しかし、「あこき」は、少将の乳母めのと子である夫帯刀たちわきと協力し、ひそかに少将を姫君のもとへ導くことに成功する。お互いに愛情を覚える二人であったが、北の方が相変わらず縫い物を押し付けるので、姫君は少将とゆっくり会っている暇もない。

 暗うなりぬれば、格子下ろさせて、灯台に火ともさせて、いかで縫ひ出でむと思ふほどに、北の方、縫ふやと見に、みそかにいましにけり。
(日が暮れて)暗くなったので、(姫君はあこきに)格子を下ろさせて、灯台に火をつけさせて、何とかして縫い始めようと思っていると、北の方が、縫っているかと見に、ひそかにいらっしゃった。

見給たまへば、縫ひ物はうち散らして、火はともして人もなし。
ご覧になると、縫い物は散らかして、灯火はともしてあるが誰もいない。

入り臥しにけりと思ふに、大きに腹立ちて、
(几帳の中に)入って寝てしまったのだと思うと、ひどく腹を立てて、

「おとどこそ。この落窪おちくぼの君、心の愛敬あいぎやうなく、見わづらひぬれ。これいましてのたまへ。かくばかり急ぐものを。いづこなりし几帳きちやうにかあらむ。持ち知らぬもの設けてつい立てて、入り臥し入り臥しすることよ。」とのたまへば、
「お殿様(中納言殿)。この落窪の君は、心のかわいげがなく、世話をしきれないよ。ここへいらっしゃっておっしゃってください。これほど(縫い上げを)急いでいるのに、どこにあった几帳であろうか。(普段は)持っていないようなものを用意してさっと立てて、(その中に)入っては寝、入っては寝していることよ。」とおっしゃると、

おとどは、「近くおはしてのたまへ。」とのたまへば、いらへ遠くなりぬれば、果ての言葉は聞こえず。
中納言は、「(大声を出すのはやめて)近くにいらしてお話しなさい。」とおっしゃるので、(北の方は中納言のほうへ行き)返事が遠くなってしまったので、終わりのほうの言葉は聞こえない。

少将、落窪の君とは聞かざりければ、「何の名ぞ、落窪は山と言へば、女いみじく恥づかしくて、「いさ。」といらふ。
少将は、(姫君の名を)「落窪の君」とは聞いていなかったので、「何の名前か、落窪とは。」と言うと、姫君はとても恥ずかしくて、「さあ。」と答える。

「人の名にいかに付けたるぞ。論なう屈したる人の名ならむ。きらきらしからぬ人の名なり。北の方、さいなみだちにたり。さがなくぞおはしますべき。」と言ひ臥し給ひけり。
「人の名前にどうして付けたのか。言うまでもなく卑屈である人の名前だろう。きらびやかでない人の名前だ。北の方が、いじめているようだ。(その人は)きっと性質の悪い方でいらっしゃるのだろう。」と言って(姫君とともに)床につきなさった。

 上の衣きぬ裁ちておこせたり。
(北の方は)袍(を縫うための生地)を裁って寄越した。

また遅くもぞ縫ふと思おぼして、よろづの事おとどに聞こえて、「行きてのたまへ、のたまへ。」と責められて、おはして、
また縫うのが遅いと困るとお思いになって、(姫君について)いろいろなことを中納言に申し上げて、「(姫君の部屋に)行っておっしゃってください、おっしゃってください。」と(中納言は)せき立てられて、(姫君の部屋に)いらっしゃって、

り戸を引き開け給ふよりのたまふやう、「いなや、この落窪の君の、あなたにのたまふことに従はず、悪しかんなるはなぞ。親なかんめれば、いかでよろしく思はれにしがなとこそ思はめ。かばかり急ぐに、ほかの物を縫ひて、ここのものに手触れざらむや何の心ぞ。」とて、
引き戸を引き開けなさるとすぐにおっしゃることには、「いやはや、この落窪の君は、あの方(北の方)がおっしゃることに従わず、けしからんことと聞いているがどうしたことだ。母親がいないようなものだから、何とかして好ましく思われたいと思うのがよい。これほど急いでいるのに、他人の物を縫って、この家の(縫い)物に手も触れないというのはどういうつもりか。」と言って、

「夜のうちに縫ひ出ださずは、子とも見えじ。」とのたまへば、女、いらへもせで、つぶつぶと泣きぬ。
「夜の間に縫い上げないならば、(おまえは私の)子とも見られまい。」とおっしゃるので、姫君は、返事もしないで、ぽろぽろと泣いた。

おとど、さ言ひかけて帰り給ひぬ。
中納言は、そう言葉をかけてお帰りになった。

 人の聞くに恥づかしく、恥の限り言はれ、言ひつる名を我と聞かれぬることと思ふに、ただ今死ぬるものにもがなと、縫ひ物はしばし押しやりて、火の暗き方に向きていみじう泣けば、
(姫君は)少将が聞いているので恥ずかしく、恥の限りを言われ、(先ほど)言っていた(落窪の君という)名前を自分(の名前だ)と聞かれてしまったと思うと、今すぐ死ぬものでありたい(死んでしまいたい)と(思い)、縫い物はしばらく(向こう側に)どけて、灯火の暗いほうに向いてひどく泣くので、

少将あはれに理ことわりにて、いかにげに恥づかしと思ふらむと、我もうち泣きて、「しばし入りて臥し給へれ。」とて、せめて引き入れ給ひて、よろづに言ひなぐさめ給ふ。
少将は気の毒で、もっともだと(思って)、どんなにか本当に恥ずかしいと思っているだろうと、自分も泣いて、「しばらく(几帳の中に)入って寝ていらっしゃってください。」と言って、無理に(几帳に)引き入れなさって、いろいろと言って慰めなさる。

落窪の君とはこの人の名を言ひけるなりけり、わが言ひつることいかに恥づかしと思ふらむ、といとほし。
落窪の君とはこの人の名前を言っていたのだなあ、私が(先ほど)言ったことでどんなにか恥ずかしいと思っているだろう、とかわいそうに思う。

継母ままははこそあらめ、中納言さへにくく言ひつるかな、いといみじう思ひたるにこそあめれ、 いかでよくて見せてしがな、と心のうちに思ほす。
継母が意地悪をすることはあるだろうが(それは仕方ないとして)、(実父の)中納言までもが(姫君を)憎らしく言ったものだな、(中納言は姫君を)たいそうひどく悪く思っているようだが、何とかして(姫君を)りっぱにして見せてやりたい、と心の中でお思いになる。

【第一】

脚注

  • 少将 この物語の男主人公。
  • 上の衣 袍ほう。衣冠束帯の時に用いる上着。
    ~脚注終~
出典

姫君の苦難

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 2部」あすとろ出版

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