「源氏物語:若菜上・夜深き鶏の声〜後編〜」の現代語訳(口語訳)

「源氏物語:若菜上・夜深き鶏の声(あまり久しき宵居)〜後編〜」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

また、前編は「源氏物語:若菜上・夜深き鶏の声(三日がほどは夜離れなく〜)」の現代語訳(口語訳)になります。

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「源氏物語:若菜上・夜深き鶏の声〜後編〜」の現代語訳

紫の上は光源氏を送り出した後、愛情の行く末に不安を抱く。また、女三の宮について、女房たちや他の御方たちがあれこれと取り沙汰するので、表面上はさりげなく振る舞いながらも、神経をすり減らしている。

 あまり久しき宵居よひゐも例ならず、人や咎とがめむと心の鬼に思して入り給ひぬれば、御衾ふすま参りぬれど、
(紫の上は)あまり遅くまで夜更かしするのも普段にないことで、みなが変に思うだろうと気がとがめなさって(寝所に)お入りになったので、(女房が)御夜具をお掛けしたが、

げに傍らさびしき夜な夜な経にけるも、なほただならぬ心地すれど、 いかにも独り寝の寂しい幾夜かを過ごしてきたにつけても、やはり平静でいられない気持ちがするが、

かの須磨すまの御別れの折などを思し出づれば、今はとかけ離れ給ひても、ただ同じ世のうちに聞き奉らましかばと、
あの須磨のお別れの時のことなどを思い出しなさると、もうこれまでと遠く離れておしまいになっても、ただ同じこの世のうちに(無事でいらっしゃると)お聞き申し上げるならば(うれしいだろうに)と、

わが身までのことはうち置き、あたらしく悲しかりしありさまぞかし、さてその紛れに、我も人も命堪へずなりなましかば、
わが身までのことはさておき、(光源氏の御身を)惜しく悲しい(と思った)ことだったよ、そのままその騒ぎの時に、自分も光源氏も命がもたなくなって(死んでしまって)いたならば、

言ふかひあらまし世かは、と思しなほす。
話しがいのある二人の仲であっただろうか、(いや、そうではなかっただろう、)と気を取り直しなさる。

風うち吹きたる夜のけはひ冷ややかにて、ふとも寝入られ給はぬを、近く候さぶらふ人々あやしとや聞かむと、うちも身じろき給はぬも、なほいと苦しげなり。
風が吹いている夜の気配が冷え冷えとして、(紫の上は)すぐにも寝つくことができずにいらっしゃるのを、身近にお仕えする女房たちが不審に思うのではなかろうかと、(衣ずれの音さえたてないように)身動きもせずにいらっしゃるのも、やはりとてもつらそうである。

夜深き鶏の声の聞こえたるもものあはれなり。
夜がまだ明けきらない時に鳴く鶏の声が聞こえてきたのもなんとなくしみじみと胸にしみ入る。

 わざとつらしとにはあらねど、かやうに思ひ乱れ給ふけにや、かの御夢に見え給ひければ、
(紫の上が光源氏を)ことさら恨めしいと(思っていらっしゃると)いうわけではないが、こんなふうに思い悩んでいらっしゃるせいであろうか、あちらの(女三の宮の所にいる光源氏の)御夢に(紫の上が)現れなさったので、

うちおどろき給ひて、いかにと心騒がし給ふに、鶏の音待ち出で給へれば、夜深きも知らず顔に急ぎ出で給ふ。
(光源氏は)ふと目をお覚ましになって、どうしたことかと胸騒ぎがしなさるので、鶏の鳴き声をお待ちかねになってい(ると、やっと一番鶏が鳴い)たので、まだ夜明け前なのも気づかぬふりをして急いでお出ましになる。

いといはけなき御ありさまなれば、乳母めのとたち近く候ひけり。
(女三の宮は)とても幼いご様子なので、乳母たちがおそば近くにお控えしていた。

妻戸押し開けて出で給ふを、見奉り送る。
(乳母たちは)妻戸を押し開けて(光源氏が)お出ましになるのを、見送り申し上げる。

明けぐれの空に、雪の光見えておぼつかなし。
夜が明けきる前の薄暗い空に、雪明かりが(白く)見えてぼんやりしている。

なごりまで留まれる御にほひ、「闇やみはあやなし」と独りごたる。
(お帰りになった)後まで残っている御匂いに、「闇はあやなし」と(乳母はつい)独りごとをもらす。

 雪はところどころ消え残りたるが、いと白き庭の、ふとけぢめ見えわかれぬほどなるに、
雪はところどころ消え残っているのが、本当に白い(砂を敷き詰めた)庭で、すぐには(雪と)見分けがつかないほどなので、

光源氏「なほ残れる雪」と忍びやかに口ずさび給ひつつ、御格子うち叩たたき給ふも、久しくかかることなかりつるならひに、人々も空寝そらねをしつつ、やや待たせ奉りて引き上げたり。
(光源氏は)「なほ残れる雪」とひそやかに口ずさみなさりながら、御格子をおたたきになるけれども、長い間このような(夜外出なさって朝お帰りになる)ことがなかった習慣から、女房たちも寝たふりをし続けて、しばらくお待たせ申し上げて(から格子を)引き上げた。

光源氏「こよなく久しかりつるに、身も冷えにけるは。怖ぢ聞こゆる心のおろかならぬにこそあめれ。さるは罪もなしや。」とて、
(光源氏は)「(格子が上がるまで)このうえなく長かったので、体も(すっかり)冷えてしまったよ。(こうして暗くて寒い中を帰ってくるのも、私があなたを)恐れはばかり申し上げる気持ちが並々でないからであろう。そうは言っても(私には、あなたを恐れなければならないような)罪もないがね。」とおっしゃって、

御衣引きやりなどし給ふに、少し濡れたる御単ひとへの袖をひき隠して、うらもなくなつかしきものから、うちとけてはたあらぬ御用意など、いと恥づかしげにをかし。
(紫の上の)御夜着を引きのけなどしなさると、(紫の上は涙で)わずかに濡れた御単の袖を隠して、心隔てもなく優しく振る舞っていたが、(一方では)すっかり許してしまおうとはなさらないお気持ちなど、本当にこちらがきまり悪くなるほどすばらしく風情がある。

限りなき人と聞こゆれど、難かめる世をと思しくらべらる。
このうえない高貴な身分の人と申し上げても、(紫の上ほど優れた女性は)めったにいない世の中であるよと、(光源氏は紫の上と女三の宮を)つい比べておしまいになる。

【若菜わかな 上】

脚注

  • 心の鬼 気がとがめること。
  • 御衾参りぬれど 夜具をお掛けしたが。
  • 鶏の音 (紫の上が聞いたのと同じ)鶏の鳴き声。
出典

夜深よぶかき鶏とりの声

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 2部」あすとろ出版

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