「落窪物語:姫君の救出」の現代語訳(口語訳)

「落窪物語:姫君の救出」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

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「落窪物語:姫君の救出」の現代語訳

姫君の救出

姫君のもとに少将が通っていることに気づいた北の方は、老人の典薬助てんやくのすけと姫君を結婚させようとたくらみ、姫君を一室に閉じ込め、その部屋の鍵は典薬助に預けてしまう。
それを知った少将は、中納言一家が賀茂祭かもまつりの見物に出かけた隙に、姫君を救い出そうとする。

 「ここにはしばし住まじ。二条殿にでうどのに住まむ。行きて格子上げさせよ。清めさせよ。」とて、帯刀たちはき遣はしつ。
(少将は)「(私は)ここ(少将の父の邸)にはしばらく住むまい。二条の邸に住もう。行って格子を上げさせろ。掃除をさせろ。」と言って、帯刀を遣わせた。

胸うち騒ぎてうれしきこと限りなし。
(帯刀は)胸がわくわくしてうれしいことはこのうえない。

あこき、人知れず心地騒ぎて、せむやうを構へ歩ありく。
あこきは、ひそかに胸をときめかせて、(姫君救出の)手はずを計画し続ける。

 午うまの時ばかりに、車二つ、三、四の君、我やなど乗りて出で給たまふ騒ぎにあはせて、北の方、典薬てんやくがもとに鍵請ひにやりて、
正午頃に、車二両に、三の君、四の君や、北の方などが乗ってお出かけになる混雑の最中に、北の方は、典薬助のもとに(姫君を閉じ込めている部屋の)鍵を求めに(使いを)行かせて、

「危ふし、わがなきほどに人もぞ開くる。」とて、鍵持ちて乗り給ひぬることを、いみじくにくしと、あこき思ふ。
「危ない、私がいない時に誰かが開けたら困る。」と言って、鍵を持って(車に)お乗りになったことを、ひどく憎らしいと、あこきは思う。

おとども、婿出だしたてて、ゆかしがりて出で給ひぬ。
中納言も、婿を(賀茂祭の舞人として)送り出して、(その姿を)見たがってお出かけになった。

みなののしりて、ささとして出で給ふすなはち、あこき告げに走らせやりたれば、 みな大騒ぎして、ざわざわとしてお出かけになると同時に、あこきは(少将に)告げに(使いを)走らせ行かせたので、

少将たがひて、例乗り給ふ車にはあらぬに、朽ち葉の下簾したすだれ掛けて、男をのこども多くておはしぬ。
少将は入れ違いに、普段お乗りになる車ではない車に、朽ち葉色の下簾を掛けて、(お供の)男どもをたくさん連れてお出かけなさった。

帯刀、馬にて先立ちて、おこせ給へり。
(少将は)帯刀を、馬で先立って、(中納言邸に)お寄越しになった。

中納言殿には、婿の御供おほんとも、北の方の御供、人三方みかたに男ども分かち参りて、人もなし。
中納言邸には、婿のお供や、北の方のお供として、お三方に(お供の)男どもを分けて(男どもはそれぞれに付いて)参ったので、誰もいない。

御門みかどにしばし立ちて、帯刀隠れより入りて、「御車あり。いづくにか寄せむ。」と言へば、
御門(の前)にしばらく車をとめて、帯刀は物陰から(邸内に)入って、「(少将の)お車が来た。どこに寄せようか。」と言うと、

「ただこの北面きたおもてに寄せよ。」と言へば、
(あこきが)「直接この寝殿の北側に寄せなさい。」と言うので、

引き入れて寄する、からうしてこの男一人出で来て、「なぞの車ぞ。みな出で給ひぬる所には。」と咎とがむれば、
(車を邸内に)引き入れて寄せると、やっとのことでこの(中納言邸の)男が一人出てきて、「いったい何の車か。みんなお出かけになったところに(来るとは)。」と、とがめるので、

「あらず。御達ごたちの参り給ふぞ。」と言ひて、ただ寄せに寄す。
(あこきは)「(怪しい者では)ありません。(新参の)侍女が参上なさるのだ。」と言って、ひたすら(車を)寄せる。

御達のとまりたりけるもみな下しもに下りて、人もなきほどなり。
侍女たちで(邸に)残っていた者もみな自分の部屋に下がって、誰もいない時である。

あこき、「早う下り給へ。」と言へば、少将下り走り給ふ。
あこきが、「早くお降りください。」と言うと、少将は(車から)降りて走りなさる。

部屋には錠さしたり。
部屋には錠がかかっている。

これにぞ籠もりけると見るに、胸つぶれていみじ。
ここにこもっていることよと思うと、胸が苦しくなり悲しい。

ひ寄りて、錠ひねり見給ふに、さらに動かねば、帯刀を呼び入れ給ひて、うちたてを二人して打ち放ちて、遣り戸の戸を引き放ちつれば、帯刀は出でぬ。
はうようにして近寄って、錠をひねってご覧になるが、全く動かないので、帯刀を呼び入れなさって、金具を二人で打ち外して、引き戸の戸を引き開けたところ、帯刀は出て行った。

いともらうたげにてゐたるを、あはれにて、かき抱きて車に乗り給ひぬ。
(姫君が)たいそう可憐に座っているのを、(少将は)いとしく思って、抱きかかえて車にお乗りになった。

 かの殿には、物見て帰り給ひて、御車より下り給ふままに見給へば、部屋の戸打ち倒して、うちたても打ち散らしければ、誰たれも誰もおどろき惑ひて、見れば部屋には人もなし。
中納言におかれては、(賀茂祭の)見物をしてお帰りになって、お車から降りなさってそのまま(邸内を)ご覧になると、(姫君を閉じ込めていた)部屋の戸を打ち倒して、金具も打ち散らしてあったので、誰も誰も(みな)驚きうろたえて、(中を)見ると部屋には誰もいない。

いとあさましく、「こはいかにしつることぞ。」と、騒ぎ満ちてののしる。
とても驚きあきれて、「これはどうしたことか。」と、(みな)騒ぎ合いわめき立てる。

「この家には、むげに人はなかりつるか。かくある所まで入り立ちて打ち割り引き放ちつらむを、咎めざりつらむは。」と腹立ちて、「誰かとまりつらむ。」と尋ねののしる。
(中納言は)「この家には、全く誰もいなかったのか。このような所まで入り込んで(金具を)打ち割り(引き戸を)引き開けたであろうことを、とがめなかったであろうとは。」と腹を立てて、「誰が留守をしていたであろうか。」と尋ねて非難する。

北の方、いはむ方なき心地して、ねたくいみじきこと限りなし。
北の方は、言いようがない気持ちがして、いまいましく残念で悲しいことはこのうえない。

あこきを尋ね求むれど、いづくにかあらむ。
あこきを捜し求めるけれども、どこにいるだろうか。(いや、いるはずがないだろう。)

落窪おちくぼを開けて見給へば、ありと見し几帳きちやう、屏風びやうぶもなし。
(姫君の部屋であった)落窪(の部屋)を開けてご覧になると、あると思った几帳や、屏風もない。

北の方、「あこきといふ盗人ぬすびとの、かく人もなき折を見つけてしたるなり。やがて追ひ棄てむと思ひしものを、『使ひよし。』とのたまひて、かくつひに負けぬること。」と、
北の方は、「あこきという盗人が、このように誰もいない折を見計らってやったのだ。(落窪の君を閉じ込めて)すぐに(あこきを)追い出そうと思ったのに、『使いやすい。』と(三の君が)おっしゃっ(て邸内に置いておい)たために、このようにとうとうしてやられてしまったことよ。」と(言い)、

「心肝こころぎももなく、あひ思ひ奉らざりしものを、強ひて使ひ給ひて。」と、三の君をいみじく申し給ふ。
「(あこきは)真心もなく、(三の君を)お慕い申し上げることもなかったのに、無理に使いなさって。」と、三の君をひどく申し上げなさる。

おとど、とまりたりける男一人尋ね出でて問ひ給へば、
中納言は、留守番をしていた男(使用人)を一人捜し出してお尋ねになると、

「さらに知り侍はべらず。ただいと清げなる網代車あじろぐるまの下簾掛けたりし、出でさせ給ひてすなはち入りまうで来て、ふと率てまかりにし。」と申す。
「全く存じません。ただとてもりっぱな網代車で下簾を掛けてあった車が、(皆様が)お出かけになってすぐに入って参りまして、さっと車を引いて退出してしまいました。」と申し上げる。

「ただそれにこそあなれ。女は、えさは打ち割りて出でじ。男のしたるなめり。何ばかりの者なれば、かくわが家を明かの昼入り立ちて、かくして出でぬらむ。」と、ねたがり惑ひ給ふかひもなし。
(中納言は)「まさにそれ(その者が犯人)であろう。女は、そのように打ち割って出ることはできまい。男がしたことであるようだ。どれほどの身分の者であって、このようにわが邸に真っ昼間に入り込んで、こんなことをして出て行ったのだろう。」と、悔しがりうろたえなさる(がその)かいもない。

【第二】

 姫君と少将はその後、子宝にも恵まれて穏やかな日々を送る。 中納言一家に対してさまざまな復讐ふくしゆうもするが、やがて和解し、親には孝養を尽くし、一家は栄達、繁栄して、幸せのうちに物語は終わる。

脚注

  • ここ 少将の父の邸。
  • 二条殿 少将の母が相続した、二条にある邸。
  • 帯刀 あこきの夫。「帯刀」は、皇太子を警護する帯刀舎人とねりのこと。
  • 典薬 典薬助のこと。北の方の伯父。「典薬助」は医薬のことをつかさどる典薬寮の次官。
  • 朽ち葉 朽ち葉色のこと。古典参考図録(巻末7)参照。
  • 下簾 牛車ぎっしゃの前後の内側に掛けた長い布。これを掛けることで内側が見えなくなる。女車の支度。
出典

姫君の救出

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 2部」あすとろ出版

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