「枕草子:すさまじきもの(すさまじきもの、昼ほゆる犬。)〜前編〜」の現代語訳(口語訳)

「枕草子:すさまじきもの(すさまじきもの、昼ほゆる犬。)〜前編〜」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

また、後編は「枕草子:すさまじきもの(除目に司得ぬ人の家。)」の現代語訳(口語訳)になります。

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「枕草子:すさまじきもの(すさまじきもの、昼ほゆる犬。)〜前編〜」の現代語訳

 すさまじきもの、昼ほゆる犬。
興ざめするものは、昼間ほえる犬。

春の網代あじろ
春の網代。

三、四月の紅梅の衣きぬ
三、四月の紅梅襲の着物。

牛死にたる牛飼うしかひ
牛が死んでしまった牛飼い。

ちご亡くなりたる産屋うぶや
赤ん坊が死んでしまった産屋。

火おこさぬ炭櫃すびつ、地火炉ぢくわろ
火をおこさないでいる角火鉢や、いろり。

博士のうち続き女児をんなご生ませたる。
博士が引き続いて女の子ばかり生ませた場合。

方違かたたがへに行きたるに、あるじせぬ所。
方違えに行った時に、もてなしをしない所。

まいて、節分せちぶんなどは、いとすさまじ。
(普通の方違えでもそうだが)まして、節分(の方違え)などの場合は、(前もって分かっているだけに)まことに興ざめである。

 験者げんざの、物の怪調けてうずとて、いみじうしたり顔に、独鈷とこや数珠など持たせ、蝉の声しぼり出だして誦みゐたれど、
験者が、物の怪を調伏すると言って、ひどく得意顔をして、独鈷や数珠を(よりましに)持たせて、蝉の鳴くような声をしぼり出して(経を)読んでいるが、

いささか去りげもなく、護法もつかねば、
少しも(物の怪が)退散しそうな様子もなく、(そのうえ)護法童子も(よりましに)つかないので、

集まりゐ念じたるに、男も女もあやしと思ふに、時のかはるまで誦み困こうじて、「さらにつかず。立ちね。」とて、
(家族の者が)集まり座って祈念していたが、男も女もこれはおかしいと不審に思っていると、(験者は祈禱を行う)所定の時間が過ぎるまで(経を)読み続けて疲れ果ててしまい、「いっこうに(護法童子がよりましに)つかない。立ちなさい。」と言って、

数珠取り返して、「あな、いと験げんなしや。」とうち言ひて、額より上ざまに、さくり上げ、あくびおのれよりうちして、寄り伏しぬる。
(よりましから)数珠を取り返して、「ああ、さっぱり効果がないなあ。」と言って、額から上の方へ、(頭を手で)なで上げて、あくびを自分からして、ものに寄りかかって寝てしまったこと(は全く興ざめだ)。

 いみじうねぶたしと思ふに、いとしもおぼえぬ人の、おし起こして、せめて物言ふこそ、いみじうすさまじけれ。
ひどく眠いと思う時に、それほど親しく思っていない人が、揺り起こして、無理やりに話しかけるのは、全く興ざめなことである。

【第二十三段】

脚注

  • 網代 冬に氷魚ひおなどを捕るために、竹 や木を編んで川瀬に設けた仕掛け。
  • 紅梅の衣 表が紅、裏が蘇芳すおうの、紅梅襲がさねの着物。
  • 炭櫃 暖房用具。
  • 地火炉 (料理用の)いろり。
  • 博士 大学寮で教授や試験に従事する文章もんじょう博士などの学者。
  • 験者 護摩ごまを焚き、呪文を唱えて、加持祈祷きとうを行う密教の僧侶。
  • 独鈷 加持祈祷に用いる仏具。武器をかたどり、金属製で、両端が矛のようにとがっている。
  • 護法 護法童子のこと。験者に使われる童形の鬼神。物の怪などを退散させる。
出典

すさまじきもの

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 1部」あすとろ出版

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