「東海道中膝栗毛:五編 上 」の現代語訳(口語訳)

「東海道中膝栗毛:五編 上 」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

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「東海道中膝栗毛:五編 上」の現代語訳(口語訳)

 江戸神田かんだ八丁堀はっちょうぼりの長屋に暮らす弥次郎兵衛やじろべえと喜多八きたはちは、運直しのために伊勢神宮へと旅立った。
冗談を交わし、いたずらをし、失敗を繰り返しつつ東海道を西へと進み、尾張おわりの国を過ぎ、伊勢国桑名に入る。
そこで二人は旦那とお供の役を半日交替でつとめることにして、まず、弥次郎兵衛が旦那、喜多八がお供役となった。

 かく打ち興じて、縄生なお村、小向おぶけ村にたどり着く。
このようにおもしろがって、縄生村、小向村にたどり着く。

このあたりも蛤はまぐりの名物、旅人を見かけて、火鉢ひどこの灰をあふぎ立てあふぎ立て、
この辺りも蛤が名物で、(茶店の女が)旅人を見かけて、火鉢の灰をあおぎ立てあおぎ立てして、

女「お入りなさりまアせ。諸白もろはくもお召しもござりまアす。お支度なさりまアせ、なさりまアせ。」
女「お入りなさいませ。上等な酒も召し上がりものもございます。お食事なさいませ、なさいませ。」

かごかき「駕いかまいかいな。これから二里半の長丁場ぢや。安うして召さぬかい。」
駕かき「駕で行きませんかね。これから(次の宿場まで)二里半の長い道のりですよ。安い値でお乗りになりませんか。」

弥次「イヤ、駕はいらぬ。」
弥次「いや、駕はいらない。」

駕かき「あとの親方、旦那を乗せ申してくだんせ。戻りぢや。安めに。」
駕かき「後ろの親方、旦那をお乗せしてくださいませ。戻り道だ。(値段は)安めに(しますから)。」

喜多八「旦那は、おひろひがお好きだ。」
喜多八「旦那は、お歩きになるのがお好きなのだ。」

駕かき「さう言はずと、モシ、旦那、安うしてやらまいかいな。」
駕かき「そう言わないで、もし、旦那、安い値で(駕で)行きませんかね。」

弥次「安くてはいやだ。高くやるなら乗りやせう。」
弥次「安いのだったらいやだ。高くするなら乗りましょう。」

賀かき「そしたら、高うして三百いただきましよかいな。」
駕かき「そしたら、高くして三百文いただきましょうかね。」

弥次「いやだいやだ。もちつと高くやらねえか。」
弥次「いやだいやだ。もうちょっと高くしないか。」

駕かき「ハア、まんだ安いなら、やみげんこで。」
駕かき「はあ、まだ安いなら、三百五十文で。」

弥次「壱貫いつくわん五百ばかりなら、乗つてやらうか。」
弥次「千五百文ぐらいなら、乗ってやろうか。」

駕かき「エエ、滅相な。わしどもも商売冥利、そないにやつとはいただかれませぬ。せめて五百で召してくだんせんかい。」
駕かき「ええ、とんでもないことで。私たちも商売のおかげで生活しているのだから、そんなにたくさんはいただけません。せめて五百文でお乗りくださいませんか。」

弥次「それでも安いからいやだ。」
弥次「それでも安いからいやだ。」

駕かき「ナアニ、安いこんではあらまい。そしたら、わかれに七百くだんせ。」
駕かき「なあに、安いことではないでしょう。そしたら、間をとって七百文くださいませ。」

弥次「イヤイヤ、面倒だ。何かなし壱貫五百よりまからぬ、まからぬ。」
弥次「いやいや、面倒だ。あれこれ言うことなく千五百文より負けられない、負けられない。」

駕かき「はてさて困つたもんぢや。それよりちつともまからまいか。」
駕かき「はてさて困ったものだ。それよりちょっとも負けるつもりはありませんか。」

弥次「まからぬ、まからぬ。」
弥次「負けられない、負けられない。」

駕かき「エエ、なんのこんぢや。駕かきの方から、ねぎるといふはめづらしい。ままよ、ぼうぐみ、壱貫五百でやらまいかい。サア、旦那召しませ、召しませ。」
駕かき「ええ、どういうことだ。駕かきのほうから、値切るというのは珍しい。どうにでもなれ、相棒よ、千五百文で行かないか。さあ、旦那お乗りなさいませ、お乗りなさいませ。」

弥次「それでいいか。高く乗つてやるかはりに、酒さかをこつちへ貰もらはにやならぬが、がつてんか。」
弥次「それでいいか高い値で乗ってやる代わりに、酒代をこっちにもらわなければならないが、承知するか。」

駕かき「あげませずとも。」
駕かき「差し上げないことがありましょうか。(もちろん差し上げますよ。)」

弥次「そんなら先へ行つて、壱貫四百五拾文ごじふもん、こつちへ酒手に差し引いて、残り五十の駕賃だが、それで承知か、どうだ。」
弥次「それなら向こうに到着して、千四百五十文を、こちらへ酒代として差し引いて、残り五十文が駕賃だが、それで承知するか、どうだ。」

駕かき「エエ、そんなこんであらず。とひやうもない。」
駕かき「ええ、そんなことであろうと思った。とんでもない。」

弥次「そこでまづ縁切りだ、ハハハハハ。」
弥次「そこでもう交渉決裂だ、ははははは。」

喜多八「こいつは旦那ができたできた。」
喜多八「これは旦那の勝ちだ勝ちだ。」

  旅人を乗せるつもりで駕かきの高い値段にかつがれにけり
旅人をその気にさせて駕に乗せるつもりでいた駕かきが、高い値段につられて、かえって旅人にかつがれて(=だまされて)しまったことよ。

脚注

  • 火鉢 土で中を塗り固めた箱で作った火入れ。
  • 諸白 上等な酒。
  • 酒手 酒代。ここでは駕かきに払う心付けのこと。
  • 縁切り 交渉決裂。
出典

東海道中膝栗毛 〔五編 上〕

参考

「国語総合(古典編)」東京書籍
「教科書ガイド国語総合(古典編)東京書籍版」あすとろ出版

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