「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期〜前編〜」の現代語訳(口語訳)

「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期(およそ能登守教経の矢先に〜)〜前編〜」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

また、後編は「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期〜後編〜」の現代語訳(口語訳)になります。

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「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期(およそ能登守教経の矢先に〜)〜前編〜」の現代語訳

 都落ちをした平家一門は、いったんは西国さいごくで態勢を立て直したが、源頼朝みなもとのよりともの弟の範頼のりよりや義経よしつねに率いられた鎌倉勢に、一の谷(今の兵庫県神戸こうべ市須磨すま区の西方)、屋島(今の香川県高松市北東部の半島)で敗戦を重ね、長門ながとの国、壇の浦(今の山口県下関しものせき市。関門海峡の東口の北岸)に追い詰められた。 元暦げんりゃく二年〔一一八五〕三月のことであった。

 およそ能登守教経のとのかみのりつねの矢先に回る者こそなかりけれ。
全く(誰一人として)能登守教経の矢の正面に立ちはだかる者はいなかった。

矢だねのあるほど射尽くして、今日を最後とや思はれけん、
(教経は)矢の用意のあるだけを射尽くして、今日を最後とお思いになったのだろうか、

赤地の錦の直垂ひたたれに、唐綾縅からあやをどしの鎧よろひ着て、いかものづくりの大太刀おほだち抜き、白柄しらえの大長刀おほなぎなたの鞘さやをはづし、左右さうに持つてなぎ回り給たまふに、面おもてを合はする者ぞなき。
赤地の錦の鎧直垂に、唐綾縅の鎧を着て、外装を豪華に作った大太刀を抜き、白木の柄の大長刀の鞘をはずし、左右(の手)に持って敵勢をなぎ払って回られると、面と向かって相手になる者はいない。

多くの者ども討たれにけり。
(源氏の側では)多くの者たちが討たれてしまったのだった。

新中納言しんぢゆうなごん、使者を立てて、「能登殿、いたう罪な作り給ひそ。さりとてよき敵かたきか。」とのたまひければ、
新中納言(知盛)は、使者を遣わして、「能登殿、あまり罪をお作りなさいますな。そんなことをしたところで(あなたが今相手にしている者どもは)ふさわしい敵ではありますまい。」とおっしゃったので、

さては大将軍たいしやうぐんに組めごさんなれと心得て、打物うちものくきみじかに取つて、源氏げんじの舟に乗り移り乗り移り、をめき叫んで攻め戦ふ。
それでは大将軍と組み打ちせよと言うのだなと了解して、刀の柄を短く持って、(次から次へと)源氏の舟に乗り移り乗り移り、大声でわめき叫んで攻め戦う。

判官はうぐわんを見知り給はねば、物の具のよき武者をば判官かと目をかけて、馳せ回る。
判官(義経)の顔を見知っていらっしゃらないので、武具のりっぱな武者を判官かと目をつけて、(舟から舟へと)駆け回る。

判官も先に心得て、表に立つやうにはしけれども、とかく違ひて能登殿には組まれず。
判官の方でも前々から気づいていて、(能登殿の)正面に立つように見せかけてはいるけれども、(実際には)あちこちに行き違って能登殿とはお組みにならない。

されどもいかがしたりけん、
けれどもどうしたのだろうか、

判官の舟に乗り当たつて、あはやと目をかけて飛んでかかるに、判官かなはじとや思はれけん、長刀脇にかい挟み、味方の舟の二丈ばかりのいたりけるに、ゆらりと飛び乗り給ひぬ。
(能登殿は)判官の舟に乗り当たって、「それっ。」と判官目がけて飛びかかると、判官はかなうまいと思われたのだろうか、長刀を脇に挟み持って、味方の舟で、二丈ほど離れていた舟に、ひらりと飛び乗りなさった。

能登殿は早業や劣られたりけん、やがて続いても飛び給はず。
能登殿は早業では劣っておられたのだろうか、すぐに続いてもお飛びにならない。

今はかうと思はれければ、太刀、長刀海へ投げ入れ、甲かぶとも脱いで捨てられけり。
(能登殿は)今はもうこれまでと思われたので、太刀、長刀を海へ投げ入れ、甲も脱いでお捨てになった。

鎧の草摺くさずりかなぐり捨て、胴ばかり着て大童おほわらはになり、大手おほでを広げて立たれたり。
鎧の草摺をかなぐり捨てて、胴だけを着てざんばら髪になり、大きく手を広げて立っておられた。

およそあたりをはらつてぞ見えたりける。
(その姿は)およそ他を圧倒するような威勢で近づきがたく見えた。

恐ろしなんどもおろかなり。
恐ろしいなどという言葉ではとても言い尽くすことはできない。

能登殿大音声だいおんじやうをあげて、「我と思はん者どもは、寄つて教経に組んで生け捕りにせよ。鎌倉へ下つて、頼朝にあうて、もの一言葉言はんと思ふぞ。寄れや寄れ。」とのたまへども、
能登殿は大音声をあげて、「我こそはと思う者どもは、近寄ってこの教経に組みついて生け捕りにせよ。鎌倉へ下って、頼朝に会って、ひとこと言おうと思うのだ。寄ってこい、寄ってこい。」とおっしゃるけれども、

寄る者一人いちにんもなかりけり。
近寄る者は一人もいなかった。

【巻第十一】

脚注

  • 直垂 ここは鎧直垂のこと
  • 唐綾縅 中国伝来の綾絹のきれを畳み重ねてつづったもの。
  • 草摺 鎧の、胴の下に垂らす部分。
  • 大童 髪を束ねないままの乱れ髪。
出典

壇の浦の合戦

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 1部」あすとろ出版

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