「 井筒:秋の夜の荒れ寺 (前場)」の現代語訳(口語訳)

「井筒:秋の夜の荒れ寺 (前場)」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

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「井筒:秋の夜の荒れ寺 (前場)」の現代語訳

諸国行脚をしている一人の僧が、奈良の寺院をめぐる途中、在原寺ありわらでらという寺を訪れる。ここは、在原業平ありわらのなりひらと紀有常きのありつねの娘が住んでいた場所であろうと、僧はこの二人の回向えこうをする。その夜、美しい女が現れ、古い塚に水を手向たむけつつ昔をしのぶ様子を見せる。

僧が、あなたは業平のゆかりの人ですかと問うと、女は否定するが、業平を懐かしむ様子である。

ワキ:昔男の、
ワキ:昔男が

地謡:名ばかりは、在原寺の跡古りて、在原寺の跡古りて、松も老いたる塚の草、これこそそれよ亡き跡の、一叢ひとむらずすきの穂に出づるは、いつの名残なるらん。草茫々ばうばうとして、露深々しんしんと古塚ふるつかの、まことなるかな古いにしへの、跡なつかしき気色かな、跡なつかしき気色かな。
地謡:名前だけはありますが、在原寺の跡が古くなって、在原寺の跡がさびれて、松の木も老いていて塚の草が生えている、これこそそれ(=業平の墓)だなあ、(業平)亡き跡でひと群れのすすきの穂が出ている所は、いつの名残だろう。草は茫々と生い茂り、露は深々と古い塚に降り、本当であるなあ、昔の跡がなつかしい様子だなあ、在原寺の跡がなつかしい様子だなあ。

ワキ:「なほなほ業平の御事、詳しく御物語り候へ。
ワキ:「ますます続けて業平の御事を、詳しくお話しください。

地謡:昔在原の中将、年経てここに石上いそのかみ、古りにし里も花の春、月の秋とて住み給たまひしに、
地謡:昔業平の中将は、長年ここ石上に、古びた里でも春は桜、秋は月を楽しみ住んでいらしたが、

ワキ:そのころは紀有常が娘と契り、妹背いもせの心浅からざりしに、
ワキ:そのころは紀有常の娘と結婚し、夫婦の情愛も浅くはなかったのだが、

地謡:また河内かふちの国高安たかやすの里に、知る人ありて二道ふたみちに、忍びて通ひ給ひしに、
地謡:また河内の国高安の里に、(別の)恋人がいて両方をかけて、ひそかに通っていらしたが、

シテ:風吹けば沖つ白波竜田山、
シテ:風が吹くと沖に白い波がたつ、そのたつという名をもつ竜田山を、

地謡:夜半よはにや君がひとり行くらんと、おぼつかなみの夜の道、行方を思ふ心とけて、よその契りはかれがれなり。
夜中にあなたが一人で行くのでしょうかと、夜道を行く夫を心配する真心が通じて、高安の女との関係はとだえがちになった。

シテ:げに情け知るうたかたの、
シテ:まことに情けを知るのは和歌、

地謡:あはれを述べしも理ことわりなり。
地謡:(和歌によって)人情を述べたのももっともである。

地謡:昔この国に、住む人のありけるが、宿を並べて門かどの前、井筒に寄りてうなゐ子の、友だち語らひて、互ひに影を水鏡、面おもてを並べ袖を掛け、心の水も底ひなく、移る月日も重なりて、おとなしく恥ぢがはしく、互ひに今はなりにけり。そののちかのまめ男、ことばの露の玉章たまづさの、心の花も色添ひて、
地謡:昔この国に、住む人がいたが、家を並べる(隣り同士の)門前の、井戸の囲いに寄って垂れ髪姿の幼児が、友達付き合いをしていて、互いに井戸の水に映した影を見合い、顔を並べ袖を掛け合って、心になんの隔てもなく、月日は移り、互いに成人して恥ずかしく思うように今はなってしまったのだ。その後あの誠実な男(=業平)は、玉のように美しい言葉を連ねた手紙に、真心をこめた和歌を添えて、

シテ:筒井筒、井筒にかけしまろが丈、
シテ:筒井筒、井筒で高さを測った私の背丈も、

地謡:生ひにけらしな妹見ざる間にと、詠みて贈りけるほどに、その時女も、比べ来し振り分け髪も肩過ぎぬ、君ならずして誰か上ぐべきと、互ひに詠みしゆゑなれや、筒井筒の女とも聞こえしは、有常が娘の古き名なるべし。
地謡:成長したでしょう、あなたにお会いしない間にと、和歌を詠んで贈った時に、その時女も、あなたと長さを比べ合ってきた振り分け髪も肩を過ぎてしまいました、あなたでなくて、他に誰が髪上げをしてくれましょうと、お互いに詠んだからか、筒井筒の女とも言ったのは、有常の娘の古い名なのであろう。

 僧が女に重ねて素性を尋ねると、女は紀有常の娘であるとほのめかして、井戸の陰に姿を消してしまう。

出典

井筒

参考

「国語総合(古典編)」三省堂
「教科書ガイド国語総合(古典編)三省堂版」文研出版

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