「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期〜後編〜」の現代語訳(口語訳)

「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期(ここに土佐国の住人〜)〜後編〜」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

また、前編は「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期〜前編〜」の現代語訳(口語訳)になります。

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「平家物語:壇の浦の合戦・能登殿の最期(ここに土佐国の住人〜)〜後編〜」の現代語訳

 ここに土佐とさの国の住人、安芸郷あきのがうを知行ちぎやうしける安芸大領実康あきのだいりやうさねやすが子に、安芸太郎実光さねみつとて、三十人が力持つたる大力だいぢからの剛かうの者あり。
さて土佐国の住人で、安芸郷を支配していた安芸大領実康の子に、安芸太郎実光といって、三十人力を持った大力の剛勇の者がいた。

我にちつとも劣らぬ郎等一人らうどういちにん、弟おととの次郎も普通には優れたるしたたか者なり。
自分に少しも劣らない家来が一人(いて)、弟の次郎も人並み以上に優れた豪傑である。

安芸太郎、能登殿を見奉たてまつて申しけるは、
安芸太郎が、能登殿を見申し上げて申したことには、

「いかに猛たけうましますとも、我ら三人取りついたらんに、たとひ丈たけ十丈の鬼なりとも、などか従へざるべき。」とて、
「どれほど勇猛でいらっしゃっても、我ら三人が組みついたとしたら、たとえ身の丈が十丈の鬼であろうとも、どうして屈服させられないことがあろうか。(きっと屈服させられるはずだ。)」と言って、

主従しゆうじゆう三人小舟に乗つて、能登殿の舟に押し並べ、「えい。」と言ひて乗り移り、甲の錣しころをかたぶけ、太刀を抜いて、一面に討つてかかる。
主従三人が小舟に乗って、能登殿の舟に(自分たちの)舟を押し並べ、「えい。」と言って乗り移り、甲の錣を傾け、太刀を抜いて、(三人で)そろって討ちかかる。

能登殿ちつとも騒ぎ給はず、真つ先に進んだる安芸太郎が郎等を、裾を合はせて、海へどうど蹴入れ給ふ。
能登殿は少しもお騒ぎにならず、真っ先に進んだ安芸太郎の家来に、体を近寄せて、海へどっと蹴り込みなさる。

続いて寄る安芸太郎を、弓手ゆんでの脇に取つて挟み、弟の次郎をば馬手めての脇にかい挟み、ひと絞め絞めて、
続いて近寄る安芸太郎を、左手の脇につかまえて挟み、弟の次郎を右手の脇にかき寄せて挟み、ひと絞め絞めあげて、

「いざうれ、さらばおのれら死出しでの山の供せよ。」とて、生年しやうねん二十六にて海へつつとぞ入り給ふ。
「さあおのれ、それではおまえらは死出の山の供をせよ。」と言って、生年二十六歳で海へすっとお入りになった。

 新中納言、「見るべきほどのことは見つ。今は自害せん。」とて、
新中納言(知盛)は、「見届けなければならないことは全て見届けた。今は自害をしよう。」と言って、

めのと子の伊賀平内左衛門家長いがのへいないざゑもんいへながを召して、「いかに、約束は違たがふまじきか。」とのたまへば、
めのと子の伊賀平内左衛門家長をお呼びになって、「おい、(死ぬ時はいっしょにという)約束はたがえるつもりはあるまいな。」とおっしゃると、

「子細にや及び候さうらふ。」と、中納言に鎧二領着せ奉り、わが身も鎧二領着て、手を取り組んで海へぞ入りにける。
(家長は)「あれこれ申し立てることがありましょうか。(申すまでもありません。)」と、中納言に鎧を二領お着せ申し上げ、自分も鎧を二領着て、手を取り組んで海へ入ったのであった。

これを見て、侍さぶらひども二十余人おくれ奉らじと、手に手を取り組んで、一所に沈みけり。
これを見て、平家の武士たち二十余人が(知盛に)死を後れ申すまいと、手に手を取り組んで、同じ所に沈んだのであった。

その中に、越中次郎兵衛ゑつちゆうのじらうびやうゑ・上総かづさの五郎兵衛・悪七あくしち兵衛・飛騨ひだの四郎兵衛は、何としてか逃れたりけん、そこをもまた落ちにけり。
その中で、越中次郎兵衛・上総五郎兵衛・悪七兵衛・飛騨四郎兵衛は、どのようにして逃れたのだろうか、そこからもまた落ちのびたのであった。

海上かいしやうには赤旗、赤印投げ捨て、かなぐり捨てたりければ、竜田川たつたがはの紅葉葉もみぢばを嵐の吹き散らしたるがごとし。
海の上には(平家の)赤旗や赤い差し物が投げ捨てられ、ちぎり捨てられていたので、(その様子はまるで)竜田川の紅葉葉を嵐が吹き散らしたようである。

みぎはに寄する白波も、薄紅うすぐれなゐにぞなりにける。
波打ち際に寄せる白波も、(それに染まって)薄紅になったことであった。

ぬしもなきむなしき舟は、潮に引かれ、風に従つて、いづくを指すともなく揺られ行くこそ悲しけれ。
乗り手もない空の舟は、潮流に引かれ、風にまかせて、どこを目指すともなく揺られて行くさまはまことに悲しいことであった。

【巻第十一】

脚注

  • 甲の錣 甲の鉢の左右と後ろに垂れた、首を守るための覆いの部分。
  • 弓手 左手。
  • 馬手 右手。
  • 二領 「領」は、鎧を数える単位。
  • 赤旗、赤印 平家の旗と差し物。
出典

壇の浦の合戦

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 1部」あすとろ出版

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