「源氏物語:御法・紫の上の死・萩の上露」の現代語訳(口語訳)

「源氏物語:御法・紫の上の死・萩の上露(風すごく吹き出でたる夕暮に〜)」の現代語訳になります。学校の授業の予習復習にご活用ください。

「源氏物語:御法・紫の上の死・萩の上露」の現代語訳

女三おんなさんの宮みやが来て以降、心労のたたった紫の上は、ついに発病する。二条院に移って養生に努めたものの、病状はしだいに重くなる。つかの間の気分のよい折、明石あかしの姫君(今上天皇の中宮となっていた)と二人でいるところに、光源氏ひかるげんじが来合わせる。

光源氏五十一歳、紫の上四十三歳の時のことである。

 風すごく吹き出でたる夕暮れに、前栽せんざい見給たまふとて、脇息けふそくに寄りゐ給へるを、院渡りて見奉り給ひて、
風がもの寂しく吹き出した夕暮れに、(紫の上が)庭先に植えた草木をご覧になろうとして、脇息に寄りかかって座っていらっしゃるのを、院がお越しになって、見申し上げなさって、

光源氏「今日は、いとよく起きゐ給ふめるは。この御前おまへにては、こよなく御心みこころもはればれしげなめりかし。」と聞こえ給ふ。
「今日は、本当によく起きていらっしゃるようだなあ。この(中宮の)お側では、このうえなくご気分も晴れ晴れなさるように見えるよ。」と申し上げなさる。

かばかりの隙ひまあるをもいとうれしと思ひ聞こえ給へる御気色を見給ふも心苦しく、つひにいかに思おぼし騒がむと思ふに、あはれなれば、
(紫の上は)これくらいの小康状態があるのをもとてもうれしいとお思い申し上げなさっている(院の)ご様子をご覧になるのも痛々しく、(自分が)いよいよ臨終という時には(院は)どんなにお心を乱されるだろうと思うと、しみじみと悲しいので、

 紫の上 おくと見るほどぞはかなきともすれば風に乱るる萩の上露
私が起きているとご覧になってもそれはほんのわずかの間のこと、ややもするとあっという間に風に乱れて散ってしまう、萩の枝に置いた露のような、はかない命なのです。

げにぞ、折れ返りとまるべうもあらぬ、よそへられたる折さへ忍び難きを、見出だし給ひても、
なるほど(歌の通り)、(萩の枝が吹く風に何度も)折れ曲がり、(枝に置いた露も)留まっていられそうもない様子で、(その枝からこぼれ落ちそうな露が、紫の上のはかない命に)たとえられている時までもが耐えがたく悲しいので、(院は庭の方を)ご覧になるにつけても、

 光源氏 ややもせば消えをあらそふ露の世におくれ先立つほど経ずもがな
どうかすると先を争って消えていく露のようなはかない世に、私たちは先立たれたり先立ったりしないでいっしょに死んでいきたいものです。

とて御おほん涙を払ひあへ給はず。
と詠んで御涙を払いきれずにいらっしゃる。

宮、
中宮は、

 明石の中宮 秋風にしばしとまらぬ露の世を誰たれか草葉の上とのみ見む
秋風に吹かれてわずかな間も留まることなく散りこぼれてしまう露、その露のようにはかないこの世を、いったい誰が草葉の上のことだけだと(他人事のように)見ることができましょうか。(いや、できません。)

と聞こえかはし給ふ御かたちどもあらまほしく、見るかひあるにつけても、
と(歌を)詠みかわし申し上げなさる(紫の上と中宮の)お顔立ちは理想的で、見るかいのある(お美しさである)ことにつけても、

かくて千年ちとせを過ぐすわざもがなと思さるれど、
(院は)このまま千年を過ごす方法があればよいのになあとお思いになるが、

心にかなはぬことなれば、かけとめむ方なきぞ悲しかりける。
(人の生死は)思うに任せぬことなので、(紫の上の命を)引き止めようがないのは悲しいことだった。

 紫の上「今は渡らせ給ひね。乱り心地いと苦しくなり侍はべりぬ。言ふかひなくなりにけるほどと言ひながら、いとなめげに侍りや。」とて、
(紫の上は)「もう(あちらへ)お帰りになってくださいませ。気分がとても悪くなりました。どうしようもないほど病み衰えてしまったこととはいうものの、(これでは)本当に無礼でございますわ。」とおっしゃって、

御几帳みきちやう引き寄せて臥し給へるさまの、常よりもいと頼もしげなく見え給へば、
御几帳を引き寄せて横におなりになっている様子が、いつもよりも本当にいかにも頼りなさそうにお見えになるので、

「いかに思さるるにか。」とて、
「どのようなご気分でしょうか。」とおっしゃって、

宮は御手をとらへ奉りて泣く泣く見奉り給ふに、まことに消えゆく露の心地して限りに見え給へば、
中宮は(紫の上の)お手をお取り申し上げて泣く泣く(ご容態を)見申し上げなさると、(歌のとおり)本当に消えてゆく露そのままの感じがしてご臨終とお見えになるので、

御誦経みずきやうの使つかひども数も知らず立ち騒ぎたり。
僧侶に病気治癒の祈禱を依頼しにいく使者たちが数えきれないほど(差し向けられ)大騒ぎしている。

さきざきもかくて生き出で給ふ折にならひ給ひて、御物ものの怪と疑ひ給ひて、夜一夜よひとよさまざまのことをし尽くさせ給へど、かひもなく、明け果つるほどに消え果て給ひぬ。
以前にも(紫の上は)こうして(一度絶息しながら)蘇生なさった(ことがあるが、その)折に(院は)お慣れになって(いるので)、(今回も)物の怪(のしわざか)とお疑いになって、一晩中、さまざまなこと(加持祈禱)をおさせになったが、(その)かいもなく、夜がすっかり明ける頃に(紫の上は)お亡くなりになってしまった。

【御法みのり

 亡くなった紫の上の顔は神々しいほどに美しく、光源氏は涙にくれる。野分のわきの日に垣間見かいまみして以来、ひそかに継母ままははを慕っていた夕霧も思わず見とれる。葬儀の後、光源氏は亡き紫の上と自身の生涯を回顧しながら、出家に備えて身辺を整理し、俗世最後の一年間を人前に出ないで過ごす。

脚注

  • 院 六条院。光源氏のこと。
  • 御前 明石の中宮のお側。
  • 御誦経の使ども 僧侶に病気治癒の祈祷きとうを依頼しにいく使者たち。
出典

はぎの上露うはつゆ

参考

「精選古典B(古文編)」東京書籍
「教科書ガイド精選古典B(古文編)東京書籍版 2部」あすとろ出版

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